第6回:痛みの正体

 先生、第4回「症状がなければ病気を放っておいていいの?」で読者の方からご質問をいただきました。

川尻 おお、質問、歓迎や。どんな質問がきたん?

S その前にちょっと整理させてください。まず、先生はこうおっしゃいましたよね。「痛みというのは数ある症状のひとつで、もしどこかに問題があっても脳が自分で対応できる、つまりセーフと判断している間は痛みなどの症状は出ない」と。あと、第3回では、「生命の脅威と脳が判断したものが溜まっていって、それがいっぱいになったとき、痛みなどの症状として出る」と。

川尻 まあ、簡単にまとめたらそうやね。

S でも、指にトゲが刺さったとか、人につねられたとかしたら、それだけで単純に痛いじゃないですか? でも、そこまで生命を脅かすようなことじゃないですよね? なのに痛いのはどういうメカニズムなんでしょう? というのがご質問です。

川尻 ああ、なるほど。ほな、今回は痛みについて、もうちょっと突っ込んで話をしよか。

 

生命の脅威を判断するのは脳

 

川尻 まず、もう一度思い出してもらいたいのは、何が生命の脅威になるか、その判断をするのは、我々の意識じゃなくて、脳だってこと。

前にも話したように脳は1秒間に4000億ビットの情報を処理していると言われているんやけど、そのうち我々が意識として認識できるのって、たったの2000ビットやねん。

 あ〜、いきなり納得。私たちがたったの2000ビットの情報から「この程度は危険じゃない」と思ったとしても、その2億倍もの情報を処理している脳からしたら危険と判断する場合があるってことですね。

川尻 せや。たとえばトゲが刺さった場合な。確かに、現代に生きる我々にとってはたいしたことはないと感じるかもしれん。でも、森の中やジャングル、自然の中で暮らしてきた人類の進化の歴史を考えると、トゲが刺さることが結構な脅威であった可能性があるねん。毒が入るとかね。

S 確かに…。

川尻 で、もっと詳しく言うと、生命の脅威を感じたから痛みが出るというよりは、その脅威が続くと脳がコントロールできる範疇を超えそうなときに脳が痛みを作り出すねん。

何で痛みを作り出すかっていうと、気づいてもらうことで、何らかのアクションを起こして、状況を変えてほしいからや。

S は〜。トゲで言えば、傷としては小さいし、我々の意識からしたら脅威は小さく感じるけれど、放っておいたら毒が入って体が危険にさらされるかもしれないから、すぐ抜くとか、何らかの対応をしてほしくて痛みを出す、そんな感じかな。

川尻 そう、そんな感じやね。

S それでいうと、人につねられた場合の痛みは、まず振り払いなさいってことですかね。

川尻 そうやね。誰か自分を攻撃してくるヤツがおるぞ、警戒しとけ、って。

面白いねんけど、もし同じ強さでつねられたとしても、それが友だちだったら、見ず知らずの人につねられたときより痛くないねん。同じ強さで自分でつねっても痛くない。

S 確かに、自分だとかなり強くつねっても、全然痛くないです。

川尻 せやろ? それって、つねるという情報だけじゃなくて、さっき言ったように4000億ビットのその他のいろんな情報を脳がトータルに処理したうえで、脳が判断した結果ってことやねん。「これは自分だから酷いことにはならんな」とか「この人は友だちでふざけているだけだから大丈夫や」とかね。振り払わなきゃいけないほどの危険性はないと判断されたから、痛みも感じないねん。

S なるほど〜。

 

痛みの新しい科学

 

 ところで、先生は体のどこかに痛みがあることと、その箇所に問題があることはまったく別物であるとも言っていますよね(第1回)?

川尻 ワシが言っているっていうより、最新の科学の進化で明らかになってきたことをワシが伝えているだけやけどね。

 あ、そうでしたね。でも、トゲが刺さったとか、つねられたとかは、明らかにその箇所に問題があって、そこが痛みますよね?

川尻 注意を向けてアクションを起こしてほしい箇所に痛みというメッセージを送っているだけで、その箇所に問題があるから痛いわけではないねん。

 トゲが刺さった、つまり指に傷ができたから痛いのではないと?

川尻 ちゃうちゃう。痛いのは、トゲが刺さって傷ができたからではないねん。つねったときもそうや。つねられたから痛いなら、友だちや自分がつねっても痛いはずやろ?

S あ、そうか…。でも、どうもいまいち解せないポイントなんですよねぇ…。

川尻 たとえば捻挫。全く動かないでいるとあまり痛みを感じなかったりするやろ? でも、動くと急に「イタタ…」ってなるやん?

それって、痛みは靭帯の状態と関係ないっていうわかりやすい例や。捻挫したという靭帯の状態は変わらないのに、動かすと痛いし、動かさなければ痛くない。じゃあ、動かしていないときは靭帯は治っているのかって言ったら、ちゃうやろ? また動かすと痛いわけだから。

痛みがないときは脳が「それでOK」と言っているというだけやねん。逆に痛いときは、脳が「そっちはちゃう、行動を変えて」って言っている。

「それでOK」と言うのは、もうちょっと言うと、「その状態でいてくれれば、脳と体の連携で恒常性が維持できるよ」ってこと。逆に、その状態でいると恒常性から逸脱していくときに痛みなどの症状を出すねんな。

 こうじょうせい?

 

全ての反応は恒常性を維持するため

 

川尻 恒常性は英語でホメオスタシスって言うの、聞いたことあるやろ? 具体的には次の2つの意味がある。

1)人間の体の内部は、ある一定の状態に保たれないと機能しない。その「ある一定の状態」のこと。

2)体の内部を「ある一定の状態」を保つために体が自ら調節しようとする性質のこと。

たとえば、体温だって、人間が生きていられる範囲ってすごく狭いわけよ。外の気温がめちゃくちゃ暑かったら汗を出して体温を生きられる範囲内に保とうとするやん? そういうのが恒常性。

脳は体内外のさまざまな情報(インプット)を受け取って、それを処理したうえで、恒常性を維持するためのアウトプットをしているねん。アウトプットはそれが痛みであれ、その他の症状であれ、そもそもは脳が恒常性を維持しようとしている結果やねん。

S 痛みが出るのも、恒常性を維持するために、何らかを変えてほしいというアウトプットなわけですね?

川尻 せや。痛みっていうと俗に「痛覚」って言われて、まるで感覚として痛みを感知するみたいに思うけど、「痛覚」って正式には「侵害受容器」って言うねん。

「侵害受容器」は別に痛みを感じ取っているわけではなくて、「何かやり過ぎがある」という感覚を受け取っている。そのことは第1回でもちょっと説明したけど、「何かやり過ぎがある」という感覚は、言い換えると、体の恒常性から逸脱していっていますよっていうことやねんな。

S なるほど。「侵害受容器」のことは前に聞いて納得したはずなんですけど、結局、何度も似たようなことを聞き直しちゃうのは、わたしはまだ根本から理解できていないってことでしょうね…。

川尻 まあ、こういうのが解明されてきたのは本当に最近やからね。科学が進む中で、痛みについてこれまでとは違う新しいことがどんどん明らかになっているねん。

たとえば、骨折した人にレントゲン画像を見せた方が痛みが増すとかね。レントゲン画像で骨が折れている状態を見た人の方が治りが遅いとか。そういう研究結果って山ほどあるのよ。

S へー。こうして何度も繰り返し聞くことで、少しずつ痛みの正体がわかってきたかな…。

 

〈ライターSのまとめ〉

◉痛みは、脳がこのままでは恒常性を維持できないと判断したときに、状況を変えるために人間に何らか行動をしてもらいたくて作り出すサイン

◉何をもって恒常性を維持できる・できないと判断するかは我々の意識を超えている。我々が認識するよりずっと多くの情報を処理している脳が判断している

◉脳は、人間に変えてもらいたい、注視してもらいたい部分に痛みを作り出す。肉体的に問題があるからそこに痛みが出るわけではない

 

このブログでは、皆様からの質問や疑問を募集しています。今回のトピックに関する質問でも、川尻先生に聞いてみたいことでも何でもかまいません。ぜひコメント欄にご記入ください。個別回答はできかねますが、今後、ブログのトピックとして川尻先生にぶつけ、回答していただくつもりです!

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